3rdアルバム発売記念ライブ3連弾
その2
2005/12/03
10、12
12/10(土)代官山「UNIT」

 9月末のある日、覚えのない方から突然、ライブ出演依頼のメールが届きました。「いきなりのメール失礼致します。私(財)日本相撲協会所属で親方をしております錦島と申します。音楽好きが高じて、DJもしておりますし、イベント等もしております。そこで年末の12月10日に、吾妻光良&スインギンバッパーズさんをメインに、Daddy's Christmasというイベントを行うのです。−−中略−−オヤジ達の哀愁を漂わすのは、ペーソスさんしか居ない!と考えております。オヤジたっぷり、代官山にむせ返る加齢臭と言う状態にしたいのです!!!」  

 この熱いメールの送信者は、大相撲の「若貴時代」に幕内で活躍した元前頭・敷島の錦島親方という方でした。なぜ、大相撲の親方が、ペーソスなんぞをご存じなのか? 涌きあがる疑問はさておき、出演依頼は喜んでお引き受けしましたが、でも、なぜ? そして、代官山という、縁もユカリも姐さんもない、しかも似合わない場所で、果たしてウケるのかいな、と、不安になりながら、ライブ当日を待ったのでした。

 私は、学生時代、代官山駅のある東急東横線に渋谷から乗って、大学へ行っていた時期がありましたが、この駅に降りたことはありませんでした。用がなかったからです。社会へ出てからも、行ったことがありませんでした。行く機会がなかったからです。島本さんは、「昔はよく、この辺りの店で呑んだもんだった」と見栄を張っていますが、それは近くの中目黒です。中目黒には、ホッピーがあります。代官山で発砲しているお酒には、「ドン・ペリニヨン」とか「クリュグ」とか、フランスの名前がついております。代官山は、恵比寿と目黒に挟まれた、わずかな範囲の、特別な、高級な、「おっしゃれぇ」な街なのです。ペーソスとは、相容れないと言っても、過言ではありません。完全敵地。ペーソスが代官山へ赴いたときの心境は、森孝慈監督率いるサッカー日本代表が、ワールドカップ(メキシコ大会)アジア予選で平壌へ乗り込んだときとほぼ同じと言えましょう(詳しくは加藤久著『完全敵地』集英社刊参照)。

 当日、緊張とともに代官山駅を降りた私は、初めてと悟られないよう、さりげなさを装って歩き出しましたが、案の定、目指すライブハウスがどこにあるのか分からない。さりとて、地図を出して見るのも悔しいので、なるべく駅を見失わないように(完全に迷子にならないように)あたりをうろつくと、イベントスタッフらしい人が出入りしている場所を発見! そこがまさしく、今夜の出演会場「UNIT」でした。スタッフに案内されて店内に入ると、既に島本さんが到着していました。岩田さんは、同じく道に迷っているらしく、島本さんが電話で教えているのですが、どのみちうろ覚えの場所なので、上手く伝わりません。結局、スタッフの人が迎えに行ってくださって、まずはリハーサルです。

 立ち位置を決めて、軽く一曲やって、「それでは、本番よろしくお願いします」と言うと、「え、一曲で良いんですか?」という音響さんの声。良いんですよ。あんまりやると、疲れちゃいますから。その後、錦島親方とご対面して、ご挨拶しました。「どこでペーソスをお知りになったんですか?」と伺うと、「クラブハイツで、大西ユカリと新世界の前座に出てらしたでしょう? あのとき、拝見したんです」というお答え。ああ、またユカリ姐さんにお世話になってしまいました。姐さんのおかげで、本当に、良い出会いをたくさん頂いてきました。姐さん、ありがとうございます!

 出番までずいぶん時間が空いたので、岩田さんは渋谷の楽器店へ行ってくると言って出かけました。島本さんと私が所在なく楽屋でぼーっとしていると、次々に、共演するバンドの方々が入っていらっしゃいました。本日の出演は、CKBのホーンセクション&女性バンドのユニット「Trio the Dog Horns」さん、女性ダンサーを加えたカッコイイ&楽しいインストバンド「Black Velvets & 乱」 さん、そしてメインアクトの「吾妻光良 & The Swinging Boppers」さん、DJのパラダイス山元さん、GOYNE卿さん、そしてペーソスというメンバーです。総勢30名も出演する大イベントを主催するのですから、錦島親方は、単なる音楽ファンではありません。本格的なプロデューサーですよ。しかも、ブッキングしている方々は、一流ミュージシャンです。ペーソスを除いて。

 知らない方々ばかりで、どなたがどのバンドの方かも分からず、呆然としていると、長見順BANDのドラマー・岡地曙裕さんが、いつも通りの飄々とした雰囲気で現れました。ああ、よかった。知っている人がいた。と言っても、この人こそ、凄いキャリアの一流ミュージシャンですが。とにかく、知り合いです。嬉しいな。岡地さんは「吾妻光良 & The Swinging Boppers」のドラマーも兼業しているのです。岩田さんも帰ってきて、岡地さんと話しているうち、ふらっとやってきたオシャレな紳士が、「あ、ペーソスさんじゃないですか」と声をかけてくださいました。こちらも「吾妻光良 & The Swinging Boppers」のアルトサックス奏者・渡辺康蔵さんでした。渡辺さんは、以前に、毎日新聞で音楽畑を専門にしている大物記者Kさん主催のパーティーに出演させて頂いた折り、ペーソスをご覧になったそうです。渡辺さんが、吾妻光良さんに紹介してくださり、やっと、楽屋の方々のお顔が見えてきました。

 ペーソスの出番は2番目ですが、合間に舞台転換を兼ねたDJタイムが30分くらいあるので、「Trio the Dog Horns」さんの演奏を全部拝見しました。CKBの中西圭一さんを中心とするホーンセクションもすごいけど、バックを努めている長井チエさん (g)、力石理江さん(key)、かわいしのぶさん(b)、グレイスさん(ds)の4人も素晴らしく、堪能しました。最後に、錦島親方が一曲歌われたのですが、これも玄人はだしのソウルフルなボーカルでした。さすが、現役時代に歌の上手い関取として知られた方です。多才ですなぁ。

 いよいよ出番です。今回は初めてのお客様がほとんどだろうと考えて、オーソドックスな構成でやろうと思ったのですが、島本さんが、「せっかくソウルフルな人たちと共演するんだから、ちょっと目新しい演出をしたい」と張り切って、冒頭に、新曲というか何というか、新しい試みを入れてみました。岩田さんの黒っぽいギターリフに乗せて、島本さんが女性下着の名称をシャウトする小曲です。この曲を作るために、島本さんは、白夜書房が編集した女性下着の通販雑誌をスエイさんに貰ってきて、研究したようです。名付けて、『キャミソール マイ・ソウル』。登場と共に、島本さんが「ブラジャー、キャミソール!」と悶えながら叫ぶと、客席の若い女性から、「えぇー」という声が。いわゆる「ドン引き」というヤツです。マズい、と思いましたが、すかさず『甘えたい』へ入って、いつも通りの展開になると、お客様の反応がぐっと良くなり、大きな笑いが起こりました。

演奏曲
1:キャミソール マイ・ソウル〜甘えたい
2:おやぢいらんかえ〜
3:恋人生
4:女へん
5:涙腺歌
6:霧雨の北沢緑道

 『女へん』では、皆様、頭の中で文字を書いて聴いてくださったらしく、ワンセンテンスごとに「おぉー」という歓声があがりました。これで、「妾」「妬む」「媚びる」といった漢字はバッチリ覚えて頂けたと思います。教育的なペーソス。

 続く「Black Velvets & 乱」 さんは、凄腕ミュージシャン4人が集まって「魅惑のムード音楽」を演奏する楽しいバンドです。岩田さんは、パーカションの山口ともさんが出演するNHK教育の「ドレミノテレビ」を見ているらしく、「あの人、こういうバンドもやってるんだねぇ」と感心していました。途中から、乱さんというダンサーが出てきて、始めはちょっとセクシーに踊っていたのですが、そのうちかなり過激なパフォーマンスになり、ビックリ! そうだ、最前列には、最年少ペーソスファンの小学1年・こなつちゃんと、小学6年の絹ちゃんがいたっけ! 大丈夫かなぁ、と思いながら、DJブースの脇から見ていましたが……。お父さん、お母さん、大丈夫でしたか?

 バンド演奏の合間のDJタイムでは、「ハルイチ」でペーソスをご覧になったことがあるというGOYNE卿さんによる昭和歌謡主体の選曲あり、ラテンパーカッションの第一人者にしてグリーンランド国際サンタクロース協会公認サンタクロース日本代表のパラダイス山元さんのパフォーマンスありで、豪華でした。パラダイス山元さんに、サンタさんのポストカードを頂きました。この方も、多才な人だなぁ。

 さて、いよいよ大トリの「吾妻光良 & The Swinging Boppers」さんの登場です。ホーンセクション8人を擁するビッグバンドで、メンバーの大半が大学時代の仲間という、25年以上の歴史があるグループです。リーダーでボーカル&ギターの吾妻さんは、日本を代表するブルースギターリストなのですが、なんと!サラリーマンなのだそうです。楽屋でお会いしたときは気の良いオヤジという感じでしたが、ステージに上がった途端、オーラが涌きあがり、もう、カッコイイ!! 最高!! 『俺のカツ丼』とか、『高田馬場へ』とか、素っ気ないタイトルの歌は、実感のこもった歌詞と明るくノリの良いサウンドで、これぞ日本のブルースでした。

 リハーサル前の楽屋では、皆さんそれぞれに楽器を準備していたかと思うと、吾妻さんの「演奏曲発表しまーす」という声で曲順表が配られ、パート譜面を分け合い、サッとステージへ。リハーサルでバッチリ全曲本番通りにさらって、「じゃ、呑みに行くか」という吾妻さんの先導で出かけていって、本番直前に帰ってくると、ほろ酔いのまま、颯爽とステージへ上がって行かれました。ピアノの方は、本当に直前、5分前くらいに「ごめんごめん、やっと仕事が終わったよ」と駆け込んできて、着替えた途端の演奏だというのに、最高のパフォーマンスをしてしまうのだから、さすがです。何より素晴らしいのは、メンバー全員が、本当に楽しそうに演奏していることでした。ペーソスの二人も、「いいなぁ。あれが本当のバンドマンだなぁ」と、羨望の眼差しでした。こんな凄い方々とご一緒できて、光栄です。機会を与えてくださった錦島親方、ありがとうございました。

 終了後、サインを求めてくださったお客様がいらっしゃいました。遠く、大阪や静岡からも来てくださったようです。丸ごとペーソス目当てでは無いと思いますが、ありがたいことです。Pヴァインレコードの辣腕セクハラプロモーターのKさんも、CDがたくさん売れて大喜びでした。皆様、ありがとうございました。
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